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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)11408号 判決 1996年3月29日

原告

豊和産業株式会社破産管財人

佐野正幸

被告

村本建設株式会社更生管財人

鬼追明夫

右訴訟代理人弁護士

富阪毅

松本研三

出水順

東畠敏明

井上計雄

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

原告が、更生会社村本建設株式会社(以下、村本建設という。)に対し、二八億〇五四一万五六三二円の更生債権を有することを確定する。

第二  事案の概要

本件は、更生会社の債権調査期日で、原告の届出債権の一部に被告管財人から異議が出されたことに対する更生債権の確定訴訟である。

一  争いのない事実

1  当事者

(一) 原告は、破産者豊和産業株式会社(以下、豊和産業という。)の破産管財人である。

(二) 村本建設は、平成五年一二月二七日、大阪地方裁判所で更生手続開始決定を受け、被告がその管財人に選任された。

2  債権届出と異議

(一) 原告は、更生債権として、被告に対し、豊和産業当時の請負代金債権四九億五六五九万六二六三円を有していた。

(二) そこで、原告は、更生債権として、右同額の届出をなしたところ、被告は、平成七年一〇月一六日に開かれた債権調査期日で、右届出債権のうち二八億〇五四一万五六三二円に異議を述べた。

3  支払いのための約束手形の振出

(一) ところで、原告は、村本建設から、右2(一)の代金支払いのため、村本建設振出の約束手形(以下、本件手形という。)を交付されていた。

(二) 原告は、その後、本件手形に裏書して、他に譲渡していた。

(三) 本件手形の所持人は、更生手続開始後に、被告に対し、本件手形債権を更生債権として届け出てきており、被告は、これを認めた。

二  中心的な争点

手形債権と原因債権の二重の債権届出が許されるかどうか。

〔被告の主張〕

ア 手形債権と原因債権は、別個の債権であるが、しかし、二重の届出を認めると、他の債権者に比べて、二倍の配当を受けることになり、平等原則に反することになるので、許されない(もし、本件手形が、原告のもとに残っていたとしたら、原告が両方を届け出ることは考えられない。)。

イ そして、当事者の合理的な意思解釈からして、約束手形を先に行使するのが一般である。管財人が、原因債権について配当をする場合でも、手形債権の行使がされないことが確実でないかぎり(言い換えると、手形と引換えでないかぎり)、配当していない。

ウ 仮に、約束手形債権から先に行使すべきであるとまではいえないにしても、①豊和産業は、すでに、本件手形を譲渡して、手形債権を行使済みであるから、原因債権を行使できないと解するべきである。②現実に、手形債権が更生債権として届け出られている状況では、被告として、原因債権の届出に異議を述べざるをえない。③また、原因債権による請求に対しては、手形の返還との引換給付の抗弁が認められているところ、本件では、本件手形の所持人が更生債権として届出を行っており、原告において右引換えに応ずることができないことは明白である。そこで、被告は異議を述べた。

〔原告の反論〕

ア 手形債権と原因債権は別個の債権である。支払呈示期間の経過後は、いずれも、債務者の住所・営業所に請求されるので、債務者にとって差異がなく、どちらの債権から先に行使されるべきであるというような根拠もない。

イ 豊和産業は、本件手形を一度行使しているが、経済的な利益を何ら得ていない。原因債権が認められないのは、この面からも、不当である(この点、村本産業が、約束手形を振り出して、工事の完成、引渡しも受けていることと対照的である。)。

ウ 被告は、二重払いの危険があると指摘するが、被告の更生計画案でも総額約6.78パーセントの弁済が受けられるにすぎないから、仮に、所持人と原告の両者に二重に払ったとしても、債務の全額を超えることはなく、二重払いにはならない。

エ 仮に、右支払いが二重払いにあたるとしても、管財人は、配当のときに、手形と引換えで支払うことにすれば、その危険はない。本件訴訟は確認訴訟であり、二重払いの危険があることを理由にして、本件請求を棄却するように求めることはできない。

三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第三  判断

一  以下、争点について判断する。

1  たしかに、本件は、原因債権の支払いのため手形が振り出された事案であるから、原告が主張しているとおり、両債権は併存していると認められる。そして、手形債権と原因債権が併存している場合でも、債権者は、その手形を、他に譲渡することができるが、右譲渡がなされたというだけで原因債権が当然に消滅せず、当該手形の支払いがされるなど、手形の譲受人らから償還請求やその他の請求を受けるおそれがなくなった時点で、初めて原因債権が消滅するものと解されるところである(最高裁判所昭和三五年七月八日判決〔民集一四巻一七二〇頁〕参照)。本件でも、他に手形が譲渡されているが、右の趣旨からして、原告主張の原因債権はいまだ消滅していないと認められる。

かかる場合に、債権者は、まず、手形債権から先に行使すべきであると解されるが(大審院大正五年五月二四日判決〔民録二二輯一〇一九頁〕参照)、しかし、支払呈示期間の経過後は、手形関係と原因関係のいずれを先に行使するかは、債権者の自由な判断に委ねられるところであると解することが相当である。

2  しかし、右のように解されるからといって、更生債権として手形債権とその原因債権の双方が届け出られた場合、更生管財人はそのいずれにも異議を述べることができないかどうかという問題は、また、別論である。

すなわち、本件訴訟は、確認訴訟であるが、しかし、一般に言われている確認訴訟とは異なり、債権調査期日に出された異議にもとづいて提起された債権確定訴訟である。そして、債権確定訴訟の判決は、単に、当事者間にその効力が生ずるのみならず、更生債権者、更生担保権者、株主の全員に対して効力が及ぶものであるし、そのことを前提にして、判決の内容が、更生計画における受益資格の有無や内容、さらには、議決権の存否、額にもかかわってくるものである。言い換えると、一般の確認訴訟や給付訴訟においては、当該当事者間において妥当する具体的な法規範を宣言することが目的であって、将来、執行段階での重複が生じた場合には、別途、民事執行法上の制度として調整することが予定されているのである。これに対し、更生債権確定訴訟にあっては、当該判決の内容が、同時に、その者の会社更生の手続上の地位を決定し、受益資格の有無、内容等をも決定していくことに繋がっているのであるから、これらを同様に取り扱うことは適当でない。

そして、会社更生手続が開始された後において、手形債権とその原因債権を重複して行使することを容認すれば、他の更生債権者との均衡を失することが明らかであって、認めることができないと解される。そして、また、被告が、原因債権の届出に対して異議を述べたとしても、そのことで、原告に対し、特別、不利な結果をもたらすこともない。前にも述べたとおり、原告は、本件手形をすでに譲渡しているのであるが、他方で、原告の原因債権は消滅していないものとされている。しかし、それは、原告が、将来、本件手形に関して償還請求等が生じうる事態を考えての法的な取扱いということでしかなく、それ以上のものではないから、手形を受け戻していない原告からの更生債権の届出があったとしても、これを認めないことで、原告に不利益を与えることにはならない。仮に、原告が、その後に償還請求など受け、本件手形を受け戻した場合には、原告は、更生債権の届出名義変更の手続をとることで対処すれば足りるのである。

3  このように見てくると、会社更生手続上では、原因債権と手形債権との併存、行使を認める必要がなく、前記認定した事情からすれば、更生管財人が、原告が届け出た原因債権に対して異議を述べたことは、相当であると解される。

二  結論

よって、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官上原裕之)

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